『家宝は寝て松 2』地獄は楽しかったかい? 同士よ。孤独な俺の孤高の奮闘。寂しい奴とさげすんでも構わないんだぜ。
おつかれさまでした。
みなさま楽しんだでしょうか、『家宝は寝て松 2』略して家宝ま2。
おっさんですんませんね。はは。
俺も今回は、The・参戦。
前日は仕事でね、終電間際までいましたよ。
国際展示場にね。
言われましたよ、同僚に。
「あ、蔦皇子、今日は泊まりでしょ? 事務所に(笑)」
「いや帰りますよ」
寝さしてくださいよ。事務所で仮眠取って始発前に並ぶて、そりゃまあ、ありがたいっすけど、あんた。今日めっちゃ混んだじゃないすか。疲労困憊すよ。寝さしてくださいよ。自分の枕で。
そんな感じで俺は終電でビッグサイトをあとにする。
ちょっとだけ駅前のローソンによって、限定松グッズでも並んでないかとチェックしたけれど、見つからず。(当日にはなんかネームプレート作れる機械とか出てたね)
そして帰宅。
さて、何時に起きようか。
悩む。始発ならば四時半には起きていたい。
今何時? え? 一時半? 寝れるの三時間? え? 死ぬ。俺死ぬ。
睡眠三時間で、待機時間四時間? 死ぬ。
よし、妥協。妥協で五時半に起きる。んでビッグサイトには七時過ぎくらいに着くようにしよう。
もう若くないし。
良い言葉。もう若くない。良い言葉。妥協という選択に力強い後押しをしてくれる言葉。良い言葉だ。まだ十代とか二十代のときに、その言葉を多用している大人を鼻で笑ていたけれど、そのおかげでめっちゃ多用できる。
鼻で笑っていた分、年寄を見下していた分、思う存分多用できる。
そうなの俺もう歳だから、始発とか仕事以外でしたくないの!!
もっと見下してくれたっていいんですよ。
だって、まだ若いんだから頑張って! とか言われるのもう嫌だもん!!
始発いや。頑張りたくない。だからフィールドのカードを表にして『もう若くないから』効果発動! 一時間の睡眠、ライフポイント500回復! そして通勤定期とWi-Fiローターをかばんに忍ばせてターンエンド!
俺は幸せな夢をみた。
どこか地下施設にいた。(幸せか?)
窓もないそこは薄暗く、表情の見えない人々がせわしなく仕事をしていた。地下施設の市場のような場所だった。(幸せな夢か?)
俺は階段を降り、はっとする。
やった、この時間もしかして焼きたてのパンが並んでるんじゃね?
どこからともなくパンの香りもするじゃないか!
俺は誘われるように、しかしまるで何度も通ったことがある道を無意識で歩くように、その場所に向かった。
そこには思った通り、焼きたてのパンらしきものがたくさんあった。夢だからよく覚えていない。
これも、あれも、それも買う!
そして、あああ!!
オニオンブレッド!! それも焼き立て!! 最後の一個! でもデカい!
え? ハーフサイズでも買えるの? 買う! ハーフ買う!!
やった焼きたてオニオンブレッドゲット!!
って? え? まってそこに置いてあるの桜餅じゃん?
三月だけの限定? まじ? ちょ、買う!
道明寺とどっちにしようかな!
ピピピ ピピピ ピピピ
「……」
もう五時半か。
アラームを止める。
ちょっと待ってね、桜餅買ってから起きるから。
「……」
違う違う違う!
違うって。なんだこりゃ。
寸でのところで覚醒する俺。
慌ててシャワーを浴びて、着替える。
この日のために、昔着ていた紫のパーカーを引っ張り出していたんだ。なんか破けてるけど。うん。それも「らしい」よね。無問題無問題。
いつもは居てるジーパンに紫のパーカー。いつものピーコートにいつもの緑のストール。いつもの青いリュックにいつもの青いナイキのバッシュ。
よし。
あれ。
なんか思った以上に、俺、「松」ぽい。
やべえ。
鏡見たら松っぽい。
おかしい。
紫のパーカー以外は普段の出勤の恰好のまんまなのに(おい)。紫のフードがコートから出てるだけで、なんだか「松」臭が。たぶん、これは自意識過剰なだけ。だと思う。
そう言い聞かせて行くぜビッグサイト!
その時俺はふと思った。
この時期、出勤の際にはマスクを着用しろとか言われている。
ビッグサイト向かうけど、出勤じゃないから、良いよな。
これでマスクしたら、ほんとイタイオタクになるから。
うん。
思ったよりも支度に時間がかかって、駅にもう少しでりんかい線直通が動く時間帯になっていた。
たぶん、この直通から混み始める。やべ、っと思って山の手に駆け込む。
そして大崎駅、やった、大崎始発がまだあるじゃん!!
俺、走る。
なんで出勤でもないのに大崎駅を爆走してるんだ俺。
あああ、お腹すいた。オニオンブレッド食べたかった。桜餅食べたかった。
りんかい線に滑り込むと、不思議なくらい空いている。
あれ?
今日って松じゃないの?
前回の状況をネットで見たところ、とんでもねー修羅場だって聞いていたのに。
がらっがらだよ? 余裕で座れるよ。
このシートがら空きだよ?
ビッグサイトだよね?
もしや幕張とかじゃないよね?
そんな不安が顔を出すくらいに空いている。
赤ぶー公式サイトで確認。大丈夫、大丈夫。ビッグサイトビッグサイト。
安心していたら眠気が襲う。聞いている音楽の音量を上げる。
そしてビッグサイト。ホームに出ると、いつも出勤するときより少し多めの女子たちが速足で改札を目指していて、俺再度安心。
よかったー。
大丈夫、今日はちゃんと松だった。みんな松のキーホルダーとかパーカーとか、松グッツ身に着けてるし。
ビッグサイトに向かうと、オンリーで待機場所が違うらしく、統率力のないスタッフさんの声を恐々信じながら松待列に並ぶ。
思ったより多くないのなー。
耳の中でRの発音をめっちゃ熱唱するベヨンセねーさんの向こうから、おそ松クラスタたちの会話を聞く。
俺、驚愕。
こいつら、高校生かよ!!!!
ってか高校生かよ!!!
わっけえええええな!!!
え、模試の直前なの? なにをやっていらっしゃるの? こんなとこに来ている場合じゃございませんでしょ?
帰って勉強しな小娘ども。
え?
数3とかわけわかんない?
I do.
俺もわかんなかったわー。
ちょっとみなさん、お若くないかしら?
ねえ、若いなー。
やっべ、俺やっべ。
俺だけじゃね?
ちょっと俺、自分を殺すわ。
俺は路傍の石になる。
もともと無いと思われる気配を消させていただく。
そして俺、立ったまま寝る。
はっと我に返ると列動いてるし。
やっべ一瞬ガチ寝してた。ベヨンセねーさんもっと声張って? 俺寝ちゃうよ?
孤独と静寂、立ったままインドリーム、かつシャカシャカビヨンセの、青と緑と紫の奴がいたら、きっとそれは俺だ。
階段を上がり、広々としたいつもの場所で待機列が確定する。
地面に胡坐をかいて、買ったパンフを開く。
俺の今回の目当てはたったの2サークル。
ふ。
小説サークルと漫画サークル。
どっちも大手だ。
ふ。
松はこれだけと決めて、集中。
その後、オンリーを脱出し春コミへ。
黒バスサークルなのにヘタリア小説も出しているサークルさんで島国パラレル本と一人ぼっちパラレル本をゲットし、freeにいる友人に差し入れをして、青エクで燐雪本を探して、マギでカシアリを探して、え、ちょっとー、大亜門せんせーの企画やってんの? いくいく(笑) という計画で、十二時前には帰る。
そして寝る。
という計画。
もう若くないんで。
しかし。パンフを見ればどうにもこうにも欲望がむくむくと膨らんでゆくのだ。
まず、松。
ちょちょちょちょちょ、ちょっとーーーーーー!!!!
シャーロックから松に流れてるじゃん!!!!
しかもカラ受けじゃん!!!
このサークルさん、松に流れてるじゃん!!現象。
とかそんな感じで、驚愕の再開を果たしたサークルさんが次々と。
あわああああ。
行かなきゃ、行かなきゃ、行かなきゃ。
いやだめだ。俺の今回の予算は一万円だ。(悲しい)
あああ、でもでも、十二国記の慶国主従本とか欲しいなぁ。
宇宙兄弟本欲しいなぁ。京極夏彦にもよりたいなぁ。うたわれるものとか、あー、そうねー、ボルム今回無いのかなー。ちょ、菊菊本とかあるし!!ひっさびさにハリポタとかも見たいね。スネイプせんせー、死んじゃったよー、スネイプというより、
アラン・リックマンが!!!!
年明け。
スマップ解散騒動とほぼ同時期に世界を駆け巡った
アラン・リックマン氏死亡
NOOOOOOOOOOOO!!!
スマップ? は? しるか!!
アラン・リックマーーーーーーーーーーンン!!!!!
大好きだったよ!!!! アランンンンン!!!!
そんな悲しみを思い出しつつ、ビヨンセを聞きながらケツの冷たさと眠気に俺そろそろ限界を迎えそうになる。
いや、冬よりは余裕ですが。
妄想力では補えない様々な限界が。
俺とは逆に、周りの小娘どものボルテージは上がってゆく。
立ち上がり、後ろを振り返るとそこには黒山の人だかり。
え。
増えたなぁ。
やっぱあの時間に来て正解だったか。
そうえば、ビヨンセの間から「八時前に4000人超え」とか聞こえてたなぁ。
友人からの連絡も途切れて、その後、「あの後、電車が激混みで、ケータイとかいじれる状態じゃなかった」とか言ってたなぁ。
そういや、職場の人に「その日の電車地獄だよ」とかアドバイスしといてよかったー。っていうか、覚えてないかな? きっと忘れてるよなー。まあ、地獄を見ればいいんじゃないかな。だって俺、今はオタク側だから。あはは。リア充は敵。
そんな静かに周りを傍観している俺の周りは戦闘態勢に入っていった。
『松はすごいよ。みんな走るから。きっと今回はこのゲートが開くはず!
そしたら私こっちに曲がるね! どこで同流する? わっかんない! ここのサークルどれくらいかかるかわかんないし! 生きて会おう? そうだね! 来週模試だしね! ここで死んだら五月これないしね!! ああ! 列動いた! ほら、みんな走りだしたでしょ? ほら。ほらああ!!! みてここから中の様子もわかる! やばいみんなあっち行くんだ! 私の同じサークル狙ってるかも! どうするどうする? きゃあああああああ!!!』
ああああ、俺の生気が吸い取られて行ってる気がする……
俺の列も動きだす。
ぞろぞろ、ぞろっぞろっ、ぞっぞっぞっ、
ったく、小娘ども……。
のろのろ歩いてんじゃねーよ!!!
ちんたらしてんじゃねーぞこらあああああああ!!!
おっせーんだよ!!!!
さっさとどけよ!!!
そこの隙間あいてんだろーが、馬鹿か!!!
きゃーきゃー言うだけの小娘どもをかわしながら、隙間という隙間を縫い歩く。決して走らない。走りはしない。
絶対に走らない。
最速の歩きで俺は突き進む。
気分はもうアイシールド21。
っていうかそれくらいしろや小娘ども!!!
前はあけんな、横に広がるな!!!!
その分、目的の本から遠ざかってんだよ、その数歩分の距離を詰めるだけの時間で、列の前に何人入り込れるかわかってんのかこら!!!
その数歩分で、直前で売り切れっつー事態にもないかねねーんだぞこらああああ!!!
そしてその数歩分で敵(俺)がつけ入るぞ。
俺に隙を見せやがったな。この崩れた陣形になったら、それがもう戦場。列が瓦解したと同時に、そこは戦場、弱肉強食だぞこわっぱがぁあああああああ!!!
俺はぐいぐい人と人の間を縫い、歩く。
「すみません、間通ります。ごめんなさい。通りまーす。ありがとうございます。あ、大丈夫ですか? ごめんなさい」
この言葉は魔法の言葉。この声があるかどうかで、人はいらだちを抑えられる。
これはまず言うのが鉄則だ子猫ちゃんたち。
言わずに、列に並んでた俺の肩にがっつーんぶつかって去っていった女、俺は一瞬呪いをかけたぜ。
呪われないように唱えるんだ「ごめんなさい。後ろ通りますね。すみませんでした、ありがとうございます」これを唱えるんだ。
そして進め。勝利とマイフェアレディ(カラ松)をつかみ取れ。
勝利は君の手にある!!!!
しかし君の、そして俺の勝利を阻むものもいることを忘れるな!!!
それは、スタッフだ。
コミケのスタッフには全幅の信頼を置いている俺だが、それ以外のイベントのスタッフには……まあちょっと、あんまり信頼していない。
毎度のことだが、オンリーとほかのイベントが一緒になっているイベントでは、スタッフの誘導があいまいな上に声も張っていないので、ほんとにここで正解なのかわからないし、一度間違えて並んでしまっていた経験もあるので、ぶっちゃけ疑ってかかっている。その時のイベントでは、俺と同じく別のオンリーに並んでしまっていた女子たちが多かったみたいで、列に中腹というか、結構早く着て並んでいた部類の場所から、スタッフに駆け寄り、慌てて別の場所に走ってゆく子を何人も見た。まあそれで俺もビクつきながら聞いてみたら、案の定かよ!!! と猛ダッシュしたわけだが。
そして今回、俺の目当てのサークルは島だった。
え、このサークル島なの? 壁じゃないの? と驚きものだった。
列はどんどん増えてゆく。
そして、通路は他の王手サークルの列とで、ぎゅうぎゅうだ。
ああ、嫌な予感がするぞ。
そして「列移動しまーす!」の声。
やっぱりな。
冬で同じ現象にワンパンサークルで味わった。
しかしその際、何人ものスタッフ総出で、「ここまで方はこの線で待機してください、移動するお姉さんたちは手を挙げて。列移動しまーす! すみません、みなさんご協力ください! 列通りまーす!」「次のみなさん、前から十列目まで移動します、手を挙げて。後ろのみなさん、二列でゆっくりこの線まで移動してください、手を挙げているお姉さんたち、ゆっくり歩きがしてください、列移動しまーす!」って感じできちっとしてくれた。
が、今回はというと。
「手をあげて移動してくださいーい。ゆっくり移動してくださーい」
と声がかかり、列が動き出したものの、先導者のスタッフ、途中で姿を消す。
おい!!!
列の前のほうの人々はなんとか前の人に食らいていて言っているが、大きな通りに差し掛かり、前の人が人込みに紛れてしまってからさあ大変、列の途中から困惑が伝わってくる。
それでも何人かは人込みを押しのけ、おそらくそちらであろう方向に走ってゆく。
そして、列のそばには、いくつもの「最後尾」と札をもった列が。
嫌な予感、列の最初から遠く離れた中腹の子が取り残され、困惑気味に、列が途切れた方向にあった「最後尾」のカードを持ってしまったのだ。
ちょ、……
「すみません、最後尾じゃないですよね!!!!!???」
俺、思わず。叫ぶ。
俺の十列ほど前に並んでいて、最後尾をもってしまった女性に叫ぶ。
女性は、え? はい! とびくっとして振り返る。
それを確認した俺、再度叫ぶ。
「すみませーーーーん!!! ちょっとスタッフ!!!! すみませんんんんん!!!!!」
「え? はい!?」
はいじゃねえよ!!!
「列!!! な〇〇ばの列!!!(途切れてる!)」
「な〇〇ば、あっちです」
あっちですじゃねえよ!!!!
その指示に、俺の前の列の女性陣一斉に走る。
俺もさすがに走った。
ったくよおおおおお!!!!
つかえねええええええスタッフだなぁあああああ畜生が!
命拾いしたなぁああこらああ、これで間違えて列に並んでいて目的のブツ買えてなかったら超極大暴動が起こってたぜこらあああああああ!!!!!!
今回の教訓。
今回ほどの自己主張を普段からしていれば、「え? もっかい言って?」と普段聞き返されることはないでしょう。
無事俺は目的の本をゲッツ。
やり切った。
やり切ったぜ。
これで、ヘタリア本買って、差し入れして、かーえろ。
途中で結局予定外のカラ松受け本を買ってしまったから、マギとか宇宙兄弟とかはあきらめて帰ろう。
松を抜け、春コミへと足を向けると、
ああ……
平和
なんて平和な世界なんだ
そののびのび感に俺は、玉音放送を聞いた日本国民のごとき安堵感に包まれた。
戦争には負けたけど(資金繰りが限界で)、これで、平和になるんだ(´;ω;`)
資金繰りが上手くいかなかったため、一人ぼっちパラレルは買えなくて、島国パラレルだけになったけど、それでもいいんだ!!!
友人のところに挨拶に行き、ファミマで買ったお菓子(!!!)と……リポD(!!!!!!!)を差し入れる。
……ごめん、ごめんね!!! ……ごめん、手伝って!! 松クラスタではない友人に説明などせず、リポDを差し出す。ごめん、ごめんね!!! 助けてね!!! なにも説明しないけれど、ごめんん!!!
あと……四本残っているリポD。
ふ。
どうしようか。
さて、そうして俺は戦場を後にした。
そうして俺は家でカラ松と祖国を堪能。
そうして昼過ぎにはマイベッドでマイ枕で、桜餅を買いに旅に出たのさ。
そして十八時間以上の爆睡。
桜餅?
さあ? わかんね。
夢とか見てない気がするわー。
あはは。