【燃えない虹 その①】 おそ松さん最終回より
おそ松さんが終わったー。
次のクールの予告とかなしに終わったー。
もうこれで終わりなんかなー。
いや待てよ、まだおそ松さんのトークイベントとかがあるじゃないか。
きっとなんかの発表があるよなー。という希望的観測。
しっかしあの最終回はないよなー。
とか思いつつ、変な話を思いついた俺。
思いついたけれど、これがまったく萌えない話だったので、どうしたものかと思う俺。
萌えるならPixivとかにアップしたり、おそ松ジャンルで孤独にサークル活動とかでもしてみるかと思うけど、これはまったく萌えないので、どうしたものかと思う俺。
ということで、ここにひっそりアップしてみることにした俺。
萌えない二次創作。
おそ松さん最終回を見終わった後にふと思いついた、松野家の七人目の子供の話。
こんな感じの話だ。
松野松造と松野松代には六人の息子がいる。成人しても職に付かず、ニート生活を謳歌するクズ。
言わずと知れた松野家の六子である。長男おそ松、次男カラ松、三男チョロ松、四男一松、五男十四松に、六男トド松。
松造と松代は六人の息子を愛して慈しんでいたものの、この六人はやっぱ駄目だ。新しい子供を作ろう、とう悟ったのだった。
かつては離婚まで考えていた両親とは思えぬ絆である。ある意味これも子はかすがいというやつまもしれない。
とはいえ、松造も松代もいい年である。高齢出産率が上がってきたとはいえ、さすがにどうよ。と六子は思っていたが、松代さすがといったとろか、松造やるなとでもいうべきか、あっさり簡単にぽーんと七人目が転がり出たのだった。
それが松野家の七人目の息子。
松野実松だ。
実松。
それは実にいい名前だった。
名は体を表すというわけではないが、すっとんきょうな名前を付けたせいか素っ頓狂に育った兄たちを教訓に、松造と松代は一所懸命にいい名前を考えた。
おそ松は、まさにお粗末である。
カラ松は、頭空っぽ中身も空っぽ。
チョロ松は、ちょろちょろちょろい。
一松は、一抹の不安。
十四松は、鳥頭。
トド松は、とどのつまりお前はいったい何なんだ。
上の六人とは違って、お前は実のある人間になるように。
実松。
本当に新しい子供を作った両親に六子は心底たまげて心底あきれて、心底、さすが俺らの親だな、と感心した。
そして二十歳以上も年の離れた弟を、心底かわいいと思った。
子煩悩ならぬ弟煩悩であった。なにせ自分の子供であってもおかしくない年齢差である。実松のためになにかおもちゃでも買てやろうと、わずかながら働くようにもなった。
働くと言っても就職などではなく、子供用のスニーカー一足分でも稼げたら辞めるというような、世間をなめ腐った働き方である。
それでも松造と松代は、七人目の子供のおかげでクズの六人も多少はましになってくれたと内心喜んでいた。
実松は、たまにおもちゃなどを買い与えてくれる年の離れた兄にずいぶんとなついた。
桃太郎を大スペクタクルに魔改造して聞かせてくれるおそ松。
ぞうさんをエレファントと魔改造して歌ってくれるカラ松。
そんな魔改造を訂正し正しい桃太郎とぞうさんを教えてくれるチョロ松。
猫と一緒に遊んでくれる一松。
キャッチボールをしてくれる十四松。
女心とトレンドとは何たるかを教えてくれるトド松。
実松はそんな兄たちが好きだった。
そんな兄たちに囲まれて生活するのが幸せだった。
けれど、実松は一人だった。
兄は六人だった。
六倍じゃなくて六分の一。
つまり、六人そろって一になる。
分数の足し算を覚えた頃、実松はその真実を突き付けられたのだった。
兄たちは六人いるのに、僕は一人だけだ。
僕はたったの一人。
僕は、兄さんたちじゃないんだ。
もう寝なさいと言われて、一人で寝床に入る夜。
兄たちは居間でお酒を飲んでいる。
パチンコなどでまとまった金が入ると、居酒屋に行くらしい。夜中に酔っぱらって帰ってきて、その騒がしさでよく目を覚ました。
居間でお酒を飲んでいるときは、そんなに騒いだりはしない。
実松が生まれる前は、近所から苦情が来るくらいどんちゃん騒ぎをしたりもしたらしいが、今は静かに飲むようになったと父さんと母さんが言っていた。
一人暗い部屋で耳を澄ましていると、かすかに声が聞こえある。この声チョロ松兄さんだろうか。
実松はそっと部屋を出た。
暗い廊下に、一筋の明かりがさしこんでいる。居間のふすまが僅かに開いていて、そこから漏れ出た明かりだった。
僅かに開いたふすまから、実松はそっと中を覗き込んだ。
そこには、思った通り、六人の兄の姿があった。
けれど、実松の知らない兄たちの姿だった。
いつもなら、丸いテーブルに七人で座り、六人の兄の視線は実松に向いていた。
けれど、今は、六人で丸いテーブルを囲み、視線の高さは下へ向くことなく、ほぼ水平に動いている。
実松の定位置には、カラ松と十四松の左右の手が置かれていて、居場所はなくなっていた。
矢継ぎ早に飛び出すたくさんの言葉、たくさんの笑い声、そして阿吽の呼吸での沈黙と、その直後にやってくる怒涛の爆笑。
実松が知らないリズム。見たことのない兄たちの表情。無意識に行われているであろう、一卵性であるが故の言葉の不要なやり取り。
僕は、兄さんたちじゃ、ないんだ。
僕には、兄さんたちがいないんだ。
僕は僕しかいない。
僕は六分の一じゃない。
僕は六分の一じゃないから、他の六分の一があと五人いたりしない。
僕はたった一人なんだ。
とある日、誰もいない家の中で、実松は丸いテーブルに座っていた。
ここは十四松兄さんが座っている場所だ。ふと、そのことに気が付いた。
そっちがチョロ松兄さんで、そこには一松兄さん。
トド松兄さんがこっち側にいて、カラ松にいさんがいて、おそ松兄さんがいて……。
僕も六人いたらよかったのになぁ。
おんなじ顔で、おそろいの服を着て、喧嘩して、でもいつも一緒にいるんだ。
面白いと思ったらみんなも一緒に面白いって思ってて、いたずらしようって思ったら、みんなもそれに賛同して、みんなでいろんないたずらを考えて、たくさん遊んで、自分たちは六人で一人なんだって、そう、思って。
おそ松兄さんの場所に、自分と同じ顔をしたもう一人の自分がいることにした。
カラ松兄さんの場所に、自分と同じ顔をしたもう一人の自分が。
チョロ松兄さんの場所に、自分と同じ顔。
一松兄さんの場所に、自分と同じ。
トド松兄さんの場所に、自分と。
五人の自分が、実松を見つめている。
やあ、みんな。
実松は心の中で、挨拶をした。
まてよ、みんな、なんていうのはおかしいな。まるで他人みたいだ。おそ松兄さんだったら、よお、お前ら、とかいうかな。カラ松兄さんなら、ヘイ、ブラザーかな。チョロ松兄さんだったら、おい、こら! とか。
そうしたら、みんなそれぞれ違った反応をするよね。
こら~、お兄ちゃんに向かっておいこらとはなんだよ! とか。
どうしたんだブラザー、とか。
うざいよ、とか。
なんすか? やきうっすか? とか。
兄たちの反応は想像できるのに、実松は、自分の分身たちの反応を想像できなかった。
みんな、まんまるな目で、実松をじっと見ているだけだ。
兄さんたちは、そっくりなのに、全然違うんだよね。全然違うのに、そっくりなんだ。同じなんだよ。
そうだ。名前をつけようかな。
そうすれば、きっと他の五人がどんな性格なのか分かるかもしれない。
おそ松兄さんの場所の自分に、徳松と名前を付けた。
カラ松兄さんの場所の自分には、捨松。
チョロ松兄さんの場所の自分には、菊松。
一松兄さんの場所の自分には、平松。
トド松兄さんの場所の自分には、門松。
名前を付けると、残りの五人の六分の一は、少しだけ笑ったような気がした。
実松は、家に自分しかいない時間ができると、十四松兄さんの場所に座って、六子ごっこをするようになった。
学校の宿題を広げると、他の兄弟も同じように宿題を広げる。
あれ? この問題が分からないなと思うと、他の誰かにそれを言わせてみる。
あ~! 問3が分からないよ! ねえ実松兄さん、分かる?
僕もそこがわかんないんだ、一緒だ。 なんて答えてみる。
すると、また別の誰かが言う。
あ、あてはめる公式が実が違うんじゃないかな。とか。
なるほど~。
どんな公式だっけ。
教科書を見ればいいじゃないか。
持ってきてないよ~。
仕方がないな、僕のを使えよ。
さすが実松兄さん! 準備が良いね!
そんな想像をしてクスクス笑う。
おかげで宿題は賑やかに終わり、実松の成績は徐々に上がっていった。
これはいい手だと思った。
つまらない宿題が楽しくなるし、成績も上がる。
けれど、ニートな兄はだいたい家に居て、実松はなかなか他の五人の六分の一と遊ぶことが気なかった。
あのテーブルでなくても、他の場所で想像できないかと試みると、あっさりとそれはできた。
家の風呂であったり、寝床であったり、学校の行き帰りであったり。
時には同じ学校に通っているという想像もした。
実松、辞書貸してくれよ。みたいにふらっと教室に現れて、英語の辞書をもって出てゆく。次の休み時間には、助かったよ、と返しに来る。
学校の帰りに、何組の何々ちゃんが気になってるんだ、と実松は六分の一に相談してみる。あー、あの子かわいいもんな。わかるよ。大学受験で忙しくなる前にこくってみれば。振られるかもしれないけどさ、そしたら、大学でもっとかわいい子を彼女にしてやるって言ってやればいいさ。ばーか、そんなの最低だろ、ほんとに捨松は。いやけど菊松、男の本音としたらそうだろ? もう、実松兄さんはそんな浅い男じゃないんだよ。
実松は五人の六分の一に励まされて告白した。
そして振られた。気持ちが悪いと言われて。
五人の六分の一が慰めてくれたので、実松はそんなに悲しくなかった。
実松は大学に受かっても受からなくても、高校を卒業したら家を出ると両親に告げた。
両親は年老いていたが、家には六人の息子がいるし、その六人はろくでもない性格であるが、よくよく観察すれば、世間の荒波をけっこう簡単に乗り越えている傑物でもあった。であるので、実松は両親の心配はさほどしていなかったし、自立するのは七人目の息子の義務だと思った。
また、まだ未成年とはいえ、自分はもう一分の一ではないので、家を出ても生きていける自信がある。
残りの六分の五がいるので、世間の荒波なんて兄たちと同じく、結構簡単に乗り越えてゆけるはずだ。
実松は自信に満ち溢れていた。
両親は、その自信に満ちた実松の巣立ちを受け入れてくれた。
しかしいざ家を出るとなると、両親は酷く心配した。
四十を越えてもなおニートな兄たちさえも心配した。
けれど実松は、そんな心配など払しょくさせてあげるとばかりに、とてもいい笑顔で家を出た。
「いってきます!」
家の前まで見送りにでてくれた家族に、六人の実松は大きく手振ってみせた。
というような。
そんなはなし。
どうでしたでしょうか。
萌えない二次創作でした。
萌えない二次を想像したら唐突に投下してもいいように、その①とか書いてみた。
しかもブログの記事を書く画面に直で書き込んでいるからプロットになにもない一発書きクオリティ。
はは。
そのうち消そう。
うっかり通勤通学途中でこれを開いてしまった君の今日一日に幸あれ。
セラヴィ!!!!